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Text File  |  1997-05-12  |  1KB  |  23 lines

  1. /
  2.  意識の失墜があった。俺は我にかえって、画面の数字の羅列を見つめた。脳波の測定器に異常はない。俺はコネクタを、こめかみからハズした。……たいしたトラップもなくてよかった。
  3.  音声回線から、俺の雇い主の声が流れ出た。
  4. 「……どうだ。あれでも『どうして壊さなきゃならない』か?」
  5. /
  6. 「んにゃ。壊して正解。……精神に悪すぎるぜ」
  7.  プログラムされた俺が潜入した『グレイス・ワールド』という名の仮想現実世界。五感や意識まで再現できる、驚異の世界。
  8.  俺まで危うくハマるところだった。俺の意識からマサミを再現するたぁ、敵もヤルゼってか?
  9. /
  10. 「何人、帰ってこなかったんだ?」
  11. 「十の指に余る。キミで十二人目だったか、十三人目だったか」
  12.  だいたい敵も馬鹿だぜ。運が悪すぎる。
  13.  俺は机に放り出された封筒と写真を見やった。……まぁ、こんな物を見ちまったから、その意識を敵に利用されたとも言える。
  14. /
  15.  だいたい、この世にマサミはいない。俺はその知らせを今朝、受けたばかりだ。……この虚脱感が、俺を現実に立ち戻らせた。
  16.  あの泣きたいような不安感。夢の中で『夢だ』と認識してしまったような絶望感というか。
  17. /
  18. 「……ふ……」
  19. 「どうかしたか?」
  20.  音声回線からの怪訝な問い口調。
  21.  悪かったな。
  22.  いい夢から放り出されて、泣きたくなることだってあるんだよ。
  23.